ででの日記

好きな話は何度したっていいもんね

ハロルド・ピンターの「管理人」を読みました

11月下旬から上演される舞台「管理人」が楽しみです。

血の婚礼からあっという間でしたね。時が経つのがはやいことはやいこと。

kanrinin-stage.com

 

このポスター素敵ですよね。

「管」の「官」と「理」の「王」が左右反転しているところ。こういう細かいデザイン大好きです。ちぐはぐな文字にコンクリ打ちっぱなしの壁、そして彩度の低さ。ちょっと不気味で湿っぽい地下室っぽくて、ポスター見ただけで「面白そう!」って思いました。(人物の写真はもう少し彩度が高いほうがきれいに見える……とは思うけど!)

最初に出たポスターと後で出たポスターで彩度が違うのが個人的にツボです。目おかしくなったんかと思った。

もくじです。

ネタバレなし

管理人を読む前に

舞台「管理人」の公式サイトによると、ハロルド・ピンター不条理演劇の大家として名声と地位を得た人物なのだそうです。

「不条理」という言葉、知ってはいるけど私にはあまり馴染みはありません。普段「不条理」って言わん言わん。そして「理不尽」と何が違うんだろうと気になったので調べてみました。

 

「不条理」

1 筋道が通らないこと。道理に合わないこと。また、そのさま。「―な話」

実存主義の用語。人生に何の意義も見いだせない人間存在の絶望的状況。カミュの不条理の哲学によって知られる。

goo国語辞典より

 

「理不尽」

道理をつくさないこと。道理に合わないこと。また、そのさま。

goo国語辞典より

うーん、ほとんど同じ意味のようです。「不条理」には哲学的な意味もあるんですね、知らなかった。言葉を見つめる角度によって意味やニュアンスが変わるの面白いですね。

試しに紙の辞書を引っ張り出して久しぶりに引いてみましたが、上記と同じようなことが書いてありました。そうなのかぁ。小中学生の時に使っていた辞書で内容が簡潔すぎたため、今回はネット辞書の言葉を引用しました。(10年ぶりくらいに開いたら付箋がいっぱい貼ってあって、思わず懐かしい気持ちになりました)

これは完全に私の主観ですが「不条理」のほうが規模が大きくて、道理の通らなさを複数人で織りなしているイメージがあります。一方「理不尽」は特定の個人に降りかかる道理の通らなさを表しているイメージ。

「不条理」は物事の事実に、「理不尽」は人間の感情にフォーカスを当てた言葉なのかな?と感じました。うーん、正解は分からないけど面白い!

 

管理人を読んでみよう

読んだ本はこちら

書 名:ハロルド・ピンター全集Ⅰ

出版社:新潮社

訳 者:喜志哲雄, 小田島雄志, 沼澤洽治

刊行年:2005年12月10日 *

*1985年刊行「ハロルド・ピンター全集」全三巻セットの新装版

今回も図書館にお世話になったのですが、本が綺麗すぎて「誰も読んでない…!?」と動揺しました。2005年に刷られた本なら納得の綺麗さです。

母が私より先に手に取っていたのですが、手渡してくれる時に「ねえ、この本すっごい字が小さいんだけど!」と驚いていました。「またまた、騒ぐほどではなかろうに……」と思いながらぺらっと中を覗くと、確かに字が小さくて笑ってしまいました。よくある四六判の本よりも少し小さいです。あと線が細い? 二段組で字が詰まっている(割に余白が多い)からそう感じるのかもしれません。そして血の婚礼よりもお話が長そうなので、適宜休憩を入れていきましょう。

 

短編がいくつか入っているだけかと思いきや、詩やエッセイ的な文章も収録されていました。今回は「管理人」以外の文章も読めたらいいな。

ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー

【収録話】 ●短編 ○エッセイ

●部屋

●バースデイ・パーティ

●パーティの光景(詩)

●料理昇降機

○『部屋』と『料理昇降機』のためのプログラムノート

●かすかな痛み

●管理人

○自分のために書くこと

○劇場のために書くこと

解題

ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー

「料理昇降機」とかすごく面白そうですよね。何を食べて生きていたら「料理」

と「昇降機」を組み合わせようと思うのか。ちなみに私が「料理昇降機」と聞いて思い出したのは、小学校にあった業務用エレベーターです。給食のワゴンを運ぶために使われていたから思い出したんだと思います。乗ってみたいという憧れがありました。出られなくなったら怖いから乗らなかったけど。

「劇場のために書くこと」は、パワフルすぎるカーテンコールの話が超おもしろかったので、冒頭だけでも読んでみてください。

その他エッセイ(?)・解説ページも面白かったです!充実の内容!

 

読むのにかかった時間:1時間くらい

わからなさ (文体):★☆☆☆☆

わからなさ (内容):★★★★☆

 

読んでみてまず感じたのは「想像よりも読みやすい」です。血の婚礼は言い回しや出てくる単語が聞き慣れなくて難しかった印象でしたが、管理人は言い回しも単語も現代の人が話しているものと大差ないと感じました。

でもやっぱりとても難しかったし分からなかった~。ひとりひとりが話している言葉は読んで理解できる。一文が文章として成立しているし、何も考えずに読むと会話が成立しているように感じる。それぞれの主張もなんとなくわかる。なのに、読み終わって「どんな話か説明して」と言われたら、首を傾げてしまう。ひとつひとつのパーツは分かるのに全体像が掴めない。モザイクアートを近くで見ているような物語でした。

最初は一文ずつきっちり読んで理解しようと試みていたのですが、途中で「泥沼にハマって出られなくなるわ」と感じてゆるやかな流し読みに変更しました。キャラクターの心の機微を追おうとしたけど難易度高かった。読んでいる途中で目が滑って「え、なんて?」とキャラクターに聞き返したくなることが多々ありました。早く生身の人間が演じているものを観たい…!

あとは、ページをめくる量と物語の進むスピードが全く比例しなかったのがおもしろかったです。ま~ったり進んだりその場をぐるぐる回ったり、かと思えば突然ダッシュをしたり。そんな感じでした。

「わかりにくかった」要因のひとつは、文中に指示語が多いことかなと思いました。演劇として上演されることを前提に書かれている文章なので必然ではあるけれど、指示語がありすぎてキャラクターが何をしているのか全然わからなかった。早く舞台観たいなー!しかし、この文章を読んでひとりの人間を立ち上げる役者ってすごいな…尊い職業だな……。

3人しか登場人物が居ないので必然的にセリフの量が多いのですが、本だと先のページまで目に入るので新鮮に驚きながら読み進めました。舞台管理人を観た後に、改めて本を開いたら「役者……尊い……」って泣くかもしれない。

 

この本の最後に注意書きがありますが、けっこう差別的な表現は出てきましたね。今回の上演でその表現が変更されるのかはわかりませんが、昔に書かれたものということを念頭に置いて観劇しようと思います。

 

物語って、話の本筋も展開も結末も存在することが多いと思うけど、ハロルド・ピンターってなんなんだろう。全然わからん。になりました。舞台で観るとまた違った視点で分からなかったり、逆に分かるところもあるんだろうな!とワクワクしました。

あと、舞台美術と小道具が楽しみです!色々細かそう!

 

舞台観終わったらもう一回読みたいです。

 

ネタバレあり

内容に触れた感想殴り書き

想像してたより会話が成り立っていたのがびっくり。でも、成り立ってると思いきや誰かが話の舵を切るので気がつくと「?」になってる。おもしろい。

ミックが想像よりもバイオレンスで震えてしまった…。けっこう…ひどいやん…。と思っていたら途中から突然優しくなる。アストンもデイヴィスも、キャラクター像がころころ変わるのが面白かったし分からなかったなぁ。

一番わからなかったのは、アストンがなぜあんなにデイヴィスに優しいのかというところ。家(家?)に連れてきて泊まらせてあげてるの優しいし、割と失礼な態度を取るデイヴィスに常に優しくて不思議でした。何が彼をそうさせたんだ。

 

最初はデイヴィスだけ支離滅裂なことを話しているのかな?と思っていたけど、デイヴィスの話も別にそこまで支離滅裂じゃなかった。ただ固有名詞が多い自語りがほとんどで、一見ストーリに関係なさそうな話をしているだけだった。なんなら可愛いおじいちゃんかもしれない…と思いました。

ミックは「触らぬ神に……」的な危うさのある男。でも途中から優しくなってて「え~わからん」になりました。家の内装について野望を語っているところは、たつなりさんが目を輝かせて少年みたいになるのかな、とちょっと微笑ましくなりました。楽しみだなあ。キャラクター紹介を読んだ時に「レオナルドに似てるのかな?」と思ったけど、レオナルドより全然バイオレンスそう……。怖…けど楽しみ…。

アストンは一番まともかと思いきや、一番(わけアリのベクトルで)とんでもない人かもしれない。と、アストンの語りを読んで思いました。ミックとアストンのちから関係(?)が気になるところです。アストンとミック、仲悪いんだろうなと想像していたけどそんなことはなく…なんだか常に想像を裏切ってくる展開でした。

 

あと一番おもしろいなと思ったのは、全員ほどよくお互いの話聞いてないところです。会話のキャッチボールができているところもあるけど、圧倒的に自分の話をしていることが多いところも。ジャンル違いのオタクの集まりかて。(※ジャンル違いのオタクが集まると「オタクであるという共通項があるため共感することはたくさんあるがジャンルが違うため内容はわからない」現象が多発する)

 

段まるごと1人のセリフということが何回かあって、ページをめくって思わず二度見してしまった。これ全部覚えて演じるのすごい……。ミックが野望を語るシーンやデイヴィスに契約(?)の話をするところとかすごく長いけど、ただ単語を羅列しているセリフなのがすごい。絶対覚えるの大変。誰が特に台詞が長いとかなく、全員平等にセリフが長いのがすごい。

 

セリフはあんなに長いのに、キャラクターの心の機微がほとんど分からなかったのが面白かった。唯一わかるのは怒りと、デイヴィスが抱えていた不安かな…。

 

あと間の多さが印象的でした。間の話が「劇場のために書くこと」の章だったか解説の章だったかに書いてあって面白かったです。

 

分からないというより掴めない物語だったけど、長台詞や間に動きが付くことで印象がガラッと変わるんだろうな~と思いました。小道具やセットを使った動きも多そうなのが楽しみ!

 

楽しみにしているシーンは鞄のやりとりです!

 

舞台管理人、無事に完走できますように。

 

おわり