ででの日記

好きな話は何度したっていいもんね

舞台「管理人 THE CARETAKER」11/20マチネ公演を観劇しました

舞台「管理人 THE CARETAKER」11/20マチネ公演を観劇しました。

2回目だったので前回よりも落ち着いて物語の流れを追うことができました。一度観ただけでも置いて行かれることはなく、でも観れば観るほど気になることが増えていく、考察と観劇を繰り返したくなる舞台だなと感じました。一度観ただけでも面白い、何度観ても面白い舞台は尊いですね。そんな舞台を観るきっかけを与えてくれてありがとう木村達成さんの気持ちです。

 

思いついたことをざっくり!

 

デーヴィスとアストンを観た時には思わなかったけど、ミックがセリフを発した時に初めて「そうだ、これ外国の物語だったんだ」と思った。デーヴィスは「こういうおじいちゃん見たことある」という感じだし、アストンの落ち着いたトーンで話す感じも「よく居る」人だなという印象。アストンに関しては、後半の独白を観るまで特筆することがない人だなと思った。(デーヴィスのキャラが濃くてアストンの違和感に自分があまり気づいていないだけなのは大いにある)

しかしミックの煽りや豊かな表情、テンポの良い会話をみて「外国人だなぁ」と思った。ミックのような調子の良い青年は日本にはあまり居ないキャラクターだから、そう感じたのかもしれない。もしくは、私が今までそういうキャラクターの人と交わることがなかったからだと思う。

デーヴィスの人種差別的な発言を聞いて眉をひそめたけれど、形を変えて自分に跳ね返ってきたようで苦い気持ちになった。

 

アストンに最初は低い姿勢でいるデーヴィス。でもペコペコしているわけでもなく、自信が無さそうなわけでもなく「自分は〇〇なんだよ」と自分の軸はぶらさないところが図々しくて印象的だった。恐らく長いあいだ、世の中からちょっと外れて生きてきた人だけど、チャーミングさや図太い神経をうまく使って、彼なりに上手に世を渡り歩いてきたんだろうなと感じた。気づいたらアストンに新しい靴をお願いしているし。人の懐に入るのがうまいのかなデーヴィスは。アストンの懐がガバガバなだけかもしれないな。

 

舞台上で必ず誰かが誰かを下に見ているのがしんどいところであり、その上下関係が二転三転していくのが面白いところだなと思った。

屋根を与えてくれたアストンに当社比低姿勢でいるデーヴィス。低姿勢ではあるけど靴をねだったり、あれがないこれがないと婉曲的におねだりをするのがとても図々しい。

ミックが現れ、彼の方がアストンより上だと判断した途端ミックに擦り寄るデーヴィス。だんだんとアストンへの態度も横暴になっていくのが滑稽。強い者を味方につけて渡り歩こうという姿勢が愚か……だけどそこがデーヴィスの賢さなのかもしれない。

 

アストンがデーヴィスを家に泊まらせてあげるのは、彼の優しさゆえの行動だと最初は思ってた。デーヴィスに優しくする事で、水底でたゆたっているような生き方に意義を見出したかったのでは?と。

でも「家に泊まらせてあげる」「カバンを取ってきてあげる」という彼の優しさに見える行動は、アストンがデーヴィスを下に見ているからこそ堂々と与えられる施しなのではないかと思った。もしデーヴィスが今の状況に劣等感を抱いていて「アストンに下に見られている」と感じていたら、状況は変わっていたのかもしれない。

優しさと善意の押し付けって何が違うんだろう…。与える側の人柄か、受け取る側の心持ちか…。言葉の選び方や振る舞い、自分ももう一度見直そう……。

 

ミックが夢を語るシーンで「宮殿」と言った時に照明がパッと明るくなる演出が好き。

 

舞台管理人、人間が人間していて大好き。でもそれと同時にコミカルで演劇的な動き(?)が共存しているところも好き。カバン枕投げ(仮名)シーンの無音の中の動きや、ミックとデーヴィスの取っ組み合いは作画が急にアニメになったようで面白くて可愛い。

 

ミックの暴力的な部分・言葉の荒い部分は、戯曲を読んだ時にもっと怖いシーンを想像したけれど、動きや表情のコミカルさ・会話のテンポの良さで怖さが和らいでいるのが絶妙なバランス感覚だなと思う。内容的に、観ていてもっと気分の悪くなるような、怖い思いをするような演劇にいくらでもできそうなのに、クスッと笑えるテイストになっているのがすごい。天才。

あとミックが思いのほか怖くないのは、乱雑な言葉が不思議と相手に吐き捨てているようには聞こえないからかなと思った。相手を傷つけるために乱暴な言葉を選んでいるのではなく、ただ性格がそうさせているだけな気がする。

 

小屋を建てないと次に進めないと主張するアストン。

書類を取りに行くと言うデーヴィス。

改築したいと言うミック。

全員、粒度は違えど前に進むためのトリガーを分かっているのに、誰一人として自分からそこに向かって行動する者はいない。ままならない現実と人間のどうしようもなさが思い出されて苦しい……。

小屋を建てる場所も資材も揃っていて、常に何かしら手を動かしているのに、決して小屋を建てるための行動は取ろうとしないアストン。

靴がないことを言い訳になかなか書類を取りに行こうとしないデーヴィス。

人一倍細かく理想を語るミック。

全員、物事を成し遂げるために動こうとせず、自分ではなく他人を使おうとしているところが、言い訳がましくて無責任で、でもそれがリアル。

「〇〇をすれば次に進める」という考え方は、逆を言えば「〇〇を成し遂げるまでは、その状況に居座り続ける免罪符になる」ということで、いくらでも自分に言い訳できてしまう。やればできる子YDK……。そしてもちろん自分にもそういう部分があって、観た後でじわ…と嫌な気持ちが滲みますね……。

 

ミックが「書類を取りに行ってないじゃないか」とデーヴィスを責め立てるが、そういった言葉をアストンには投げかけたこと無いんだろうなと感じた。ミックとアストンの仲が良いのかよく分からないなと思ったけれど、ミックがとにかくアストンを気にかけて大事に思っているんだな最後の方でわかった。建て替えた後にアストンと住むんだと理想を語る姿がとても輝いていて愛おしかった。ミックが誰よりも理想を語るのは、調子の良い性格がそうさせているのもあるけど、理想を語ることで現実から目を逸らしているのかなと思った。夢の中に生きているから、あんなにイキイキとしているのかも。

 

ミックの「お前臭いんだよ」が怖い。途中で「俺は臭いなんて言わない」と言っていた気がするけど、最後はやっぱり臭いと言っていて、ディーヴィスに何を言ったら効くのかがよく分かっていて聡明だなと思った。

しかしアストンもミックも、デーヴィスを泊まらせることはするのにお風呂は貸してあげないのかな?(お風呂壊れてるとか言ってたかしら…)(描かれていないだけでお風呂を貸しているのかもしれないけど)

住まいを提供するという行動をトリガーとしてアストンとミックに「デーヴィスに管理人になってもらう」というアイデアが生まれるわけだけど、2人ともそこしか見えていないというか…私利私欲のためにしか行動していないなと感じた。管理人になってもらうなら、なおさら綺麗になってもらった方が良い気がするけれど。アストンもミックも、理想はたくさん描くけど現実と結びつけられない人だよなと思った。

 

アストンとミックが意思疎通させることはほとんどないけれど、最後に2人が向き合い頷き合って気持ちを通わせるところがとても好き。

1回目観た時はこの頷き合いと、ミックがドアを閉めかけて開けて出ていく意味が分からなかった。けど、今回の観劇で、あの頷き合いは「「このおじさん…ちょっと嫌じゃない…?」」で、ミックのドアを開けるところは「出て行ってもらうなら開けておけばいいか」なのかなと思った。

デーヴィスのおかげで直接心を通わせることとなったアストンとミック……。仲良くやってくれ……。

 

キャラクターが発している言葉そのものよりも、その言葉を発した意図がより気になる舞台だなと思った。

最後のシーンでデーヴィスがアストンに向かって色々言うけれど、あれは今までのちょっとした失言を取り繕って必死に悪あがきをしているんだなと感じた。他のシーンの「今ここで言う意味は?」と思った言葉は、感情を隠すためだったり何かを取り繕うためだったり、言葉そのものよりも乗せられた感情に意味があるのかなと感じた。何度も観て、そのキャラクターが考えていることを観察したい。

 

ぱっと観に行くにはハードル高く感じそうな舞台だけれど、好きな役者さんのおかげでこうして観にいくことができて幸せです。まだ行ったことのない劇場に足を運べること、ひとつの作品について考えごとをすること、初めての役者さんの演技を観られること、どれを取っても幸せです。

木村達成さんの仕事の選び方が好きです。

 

おわり